宗派ごとのお墓の特徴
1)宗派によるお墓の決まりはありません
「宗派によってお墓の形って違うんですか?」
石材店に勤めている者ならこうした質問はよくお客様から聞かれるのですが、宗派によるお墓の形状の違いというのは、実はありません。
お墓文化の成り立ちは実に複雑に入り乱れているので、その起源を探ることは並大抵のことではないのですが、古来からの民俗、神道、儒教、仏教などがハイブリッドに混ざり合う中でできあがったのが現在のお墓の形です。
ですから、その中の一部である仏教をさらに細分化して、宗派別に形状が異なるということはないのです。
2)宗派による正面文字の違い
形状こそ違いはありませんが、宗派によって仏石の正面に彫刻する文字が異なります。
【○○家之墓】
どの宗派でも適用可能で、最もポピュラーな刻印文字です。宗派よりもまずはその家の墓であることを記す、もっとも原初的な文字彫刻だと言えます。
【南無阿弥陀仏】
阿弥陀如来に帰依するという意味の名号(みょうごう)です。
浄土宗や浄土真宗など、阿弥陀如来を本尊とする宗派で唱えられる言葉です。
特に浄土真宗では、先祖への礼拝よりも阿弥陀如来に帰依することを重視しているために「○○家之墓」よりも「南無阿弥陀仏」を彫刻することが多いようです。
また、浄土宗の場合は梵字の「きりーく」字を彫刻することもあります。「きりーく」字は阿弥陀如来を表します。
【南無釈迦牟尼仏】
釈迦如来に帰依するという意味の言葉です。釈迦如来を本尊とする臨済宗や曹洞宗などではこの言葉を刻印することもあります。
【南無大師遍照金剛】
真言宗の開祖である弘法大師(空海)に帰依するという意味の真言です。「御宝号(ごほうごう)」とも呼ばれます。真言宗ではとても大切で、最も身近に唱えられる「お経」であるために、この御宝号を正面文字として刻むこともあります。
また、梵字の「あ」字を彫刻することもあります。「あ」字は真言宗の本尊である大日如来を表します。
【南無妙法蓮華経】
法華経の教えに帰依するという意味の言葉です。主に日蓮宗や法華宗系の宗派で大切にされている言葉で、「お題目」などとも呼ばれます。
また、お題目でなく「○○家之墓」と彫刻する場合、その頭に「妙法」の2字を刻印することもあります。
3)宗派による戒名の違い
宗派によって死者に授ける「戒名」も宗派によって異なります。
戒名は、浄土真宗では「法名」、日蓮宗では「法号」などとも呼ばれます。
戒名を授けることを「授戒」と呼びます。授戒を受けることで出家者は正式な仏弟子として認められます。
授戒は、本来は生前の出家者に対して行われきたのですが、死者供養を仏教が担うようになり、死者に戒を授けることが一般化しています。
授戒は葬儀の中で執り行われ、その時に授かった名前を後日墓石に刻印します。
戒名の基本形は…
男性が ◇◇▲▲居士(信士)
女性が ◇◇▲▲大姉(信女)
…などですが、宗派によってはそれぞれの特徴があります。
浄土宗では戒名の中に「誉」の文字を入れます。
日蓮宗では法号の中に「日」の文字を入れます。
そして、浄土真宗の法名は他宗の戒名とは大きく異なり…
男性が 釋 ◇◇
女性が 釋尼◇◇
…というような形になります。